『ふくわらい』西加奈子
西加奈子さんの本は登場人物みんなが生きていて、人の温もりを感じます。
小説的なキャラなんですが、どこかリアルで。
そんな西加奈子さんの本です。
幼少期から独特の世界観を持つ鳴木戸定。
ふくわらいを唯一の趣味とし、父親に連れられ世界を飛び回った子供時代。
一癖も二癖もあるそんな子供時代を経て大人になった定は
自分の世界の中で不器用ながらも手を抜かずに編集者という仕事と向き合います。
愛情も友情も知らない、真面目で変わり者の定。
定が生きている、定の、定による、定のための、世界。
世界の先っちょしか知らなかった定は、
独特な世界観を持つ人々、彼らもまた世界の先っちょしか知らないのかもしれません。
そんな人々との出会いによって、世界を広く、深いものにしていきます。
そして、定は世界に恋をする。
ラストのシーン、定が世界に恋をしたからこその行動。
世界の素晴らしさを知りつつある定の、己の身体で世界を感じたいという感情の現れだと僕は思います。
当たり前のことではありますが、先っちょだけが全てではない。
しかしその一方で、先っちょが全てであり、そのものなのです。
世界を知った気になってそれらしく行動するのではなく
体感した範囲のみを自分の世界としその範囲内で全力で生きる
そんな登場人物の温かい真っ直ぐさに心打たれる先品です。
前回に引き続き今回も編集者がメインキャラの本を選んでしまいましたが全くの偶然です。
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